WCSC35(第35回世界コンピュータ将棋選手権)のたややんさんの生配信にお邪魔したときに、私は「Ryzen 9 9950X、将棋AI使う人ならば絶対買うべき」とめちゃめちゃお勧めして、たややんさんも「それはそう」と同意してくれていたのですが、そのあと、私が「9950Xを持ってないなら、人生の半分ぐらい損してる」と言ったところ、たややんさんから「それは、嘘くせー」とツッコミが入りました。
今回は、やねうら王プロジェクトで使っている9950X搭載PCについて自作する人のためにパーツを紹介していきたいと思います。
9950Xは、非常にワットパフォーマンスが優れており、かつ、nps(探索速度)も高めなので将棋AIでの研究にも適しています。水匠10で(探索速度が)40Mnps程度でます。5万円ぐらいで買えるノートパソコンの5~10倍ぐらい出ています。
Threadripper 3990Xでも100Mnpsを下回るぐらいだと思うので、9950Xが3台あれば、余裕で3990Xを上回ります。
そして、気になるお値段ですが、自作するなら、16万円台で組み立てられます。
パソコンショップのBTOで買いますと、25万円~30万円ぐらいしますが、自作すればたったの16万円です。毎月のお小遣いで10台ぐらい買えちゃいます。(買えちゃわない)
以下、実際に組み立てて動作しているパーツ一覧を書いておきます。価格は5月末時点でのもので、いまはさらに値下がっているようです。アマゾンのポイント還元などを考慮すると実質16万円ぐらいで揃うのではないでしょうか。
・マザーボード B650M
MSI B650M GAMING PLUS WIFI AMD Ryzen 7000/9000 シリーズ対応 Socket AM5 DDR5 Micro-ATX マザーボード MB6467
アマゾン 18162円
・CPU Ryzen 9 9950X
Ryzen 9 9950X (16C/32T、4.3GHz、TDP 170W、AM5、Radeon Graphics) BOX W/O cooler
ドスパラ 89793円
・SSD 1TB
シリコンパワー SSD 1TB【超高速 ゲーミングSSD】Read 5,000MB/s Write 4,800MB/s 3D NAND M.2 2280
アマゾン 8580円
・CPUクーラー MUGEN6
SCYTHE サイズ サイドフロー型CPUクーラー MUGEN6 BLACK EDITION デュアルファン 6mm径ヒートパイプx6 SCMG-6000DBE
アマゾン 6027円
・メモリ DDR5-64GB
CORSAIR Corsair DDR5-5600MHz デスクトップPC用メモリ VENGEANCE 64GB(32GBx2) CMK64GX5M2B5600Z40 MM8194
アマゾン 22469円
※ メモリ 96GBが良ければ、CORSAIR DDR5-5600MHz デスクトップPC用メモリ VENGEANCE DDR5シリーズ (Overclock PMIC) Intel XMP メモリキット 96GB ブラック
アマゾン 36469円
・電源 80PLUS Gold 850W
ANTEC Antec、80PLUS Gold認証取得 高効率高耐久フルモジュラー電源ユニットホワイトモデル「NE850G M White」 出力850W
アマゾン 15199円
・PCケース microATX ミニタワー
ANTEC microATX ミニタワーケース NX200M
アマゾン 4927円
・扇風機
アイリスオーヤマ サーキュレーター 静音 8畳 マカロン マットデザイン 首振り固定 パワフル送風 コンパクト PCF-MKM15N-W ホワイト
アマゾン 2040円
組み立て上の注意点
・上のリストには、OS代は含まれていません。
・CPUグリスはCPUクーラーに付属しているものを使いました。
・このCPUクーラー(MUGEN 6)には6本のヒートパイプが使われていて、かなり放熱性が良いので、冷却は扇風機で(水冷でなくとも)なんとかなります。(室温が25°以上になってきたらエアコンは必要)
・プラスドライバー(工具)はCPUクーラー(MUGEN 6)に付属しています。これがマグネットになっていてネジがくっつくので使い勝手が良いです。あとはマザーボードをPCケースに固定するときや、M.2のSSDを取り付けるときに小さなプラスドライバーが必要となります。(持っていなければ100円ショップで買いましょう。)
・マザーボードにWiFi、HDMI出力、DisplayPortが搭載されているので、GPUやLANカードはなしでも動きます。このマザーボード、背面にType-Cポートが一つあるのも嬉しいですね。
・無線LANドライバーは、RealtekのものとAMDのものが公式サイトからダウンロードできます。同じ型番のマザーボードなのですが、Realtek製のチップが使われているものと、AMD製のチップが使われているものとがあるようです。(違うほうをインストールして無線LANが使えなくて嵌りました。) デバイスマネージャの画面でどちらのチップが使われているか確認しましょう。
・PCケースがミニタワーなので組み立てにくいです。マザーボードをケースの中に固定するのは一番最後にして、ケースの外側でCPUやCPUクーラー、メモリを取り付けましょう。
・Windowsのインストール時にインターネット接続を要求されるとWiFiのドライバーがなくて詰むので、BypassNROで回避しました。(「oobe\BypassNRO.cmd」で検索してみてください。)
・Ryzen 9950XはCPU負荷100%にすると95°まで温度が上がります。これで24時間運用するとさすがにCPUを痛めてしまうので、85°に設定しています。(BIOSの設定で、Overclock ⇨ PBO (Precision Boost Overdrive) ⇨ Thermal point 85 で 最大温度を 85°に設定できます。BIOSを最新のものにアップデートした後は、この設定がなくなり、「Platform Thermal Throttle Limit」を摂氏で設定できる項目が追加されており、自由な温度に設定できるようになりました。)
例えば、室温20°だと85°に設定していると最大温度である85°まであがり、サーマルスロットリングで200W前後の消費電力となるようです。この状態で、水匠10を動かしたところ32スレッドで探索速度は40Mnps程度出ています。室温25°だと180W、35Mnps程度でした。
・上記のリストの組み合わせで実際に7台のPCを組み立て(1台は開発用)、6台を24時間丸一ヶ月以上連続で動かしていて、何も問題は起きていないので、相性問題は起こりにくいとは思いますが、以上の情報は、相性問題が起きないことを保証するものではありません。組み立ては、あくまで自己責任でお願いします。
ピンが折れました
昔のPCは、CPU側にピンがあり、マザーボード側のCPUソケットにぶっ刺す感じだったのですが、いまはCPU側にはピンがなく、マザーボード側にピンのようなものがあります。私は、それがよくわかってなかったのと、PCケースにマザーボードを固定してからCPUの取り付けなどをしていたため、手が滑ってマザーボードのCPUソケットのところにCPUが軽く落下してしまいました。
最初、PCが起動しないのでCPUが初期不良なのかと思い、もう一つ9950Xを買いました。初期不良交換は到着してから1週間以内です。速攻でもう一つ9950Xを注文して、3日後に到着。初期不良交換を申し出るまでにもういくらも猶予が残されていません。そして、その新しくきた9950Xをマザーボードに取り付けるも、これでも起動しません。もしかしてマザーボードか?と思って、CPUを取り外して観察したら、よく見たらピンが曲がっているではありませんか。


このようにピンが折れたり、隣と接触しているとショートして、CPU側が壊れることもあります。もしかして9950X(その時は1個11万円)を2つ壊してしまったか?
新しいマザーボードを取り寄せて調べることにしました。新しいマザーボード到着に2日かかり、初期不良交換のリミットが残り1日となりました。
それで、新しいマザーボードにCPUを載せてもPCに電源を入れてもマザーボードのエラーランプ(LED)がつくので、壊れたCPU 2つと、その壊れたCPUを載せて電源を入れたことにより、いま到着したばかりのマザーボードも壊れたのだと思いました。マザーボードは2万円弱です。傷口がどんどん広がっていきます。
「マザーボード ピン修理」みたいな動画をYouTubeで2,3時間視聴しました。古いタイプのマザーボードを修理している動画はあるものの、最近のマザーボードはピンのピッチが狭いためか、修理している動画はほとんど見当たりません。
まずマザーボードが本当に壊れたのか確かめるために安めのCPUであるRyzen 5 9600X(4万円弱)をテスト用にポチることにしました。それから、5000円ぐらいの顕微鏡もアマゾンでポチることにしました。もう1つ目の9950Xの初期不良交換までの期日すぎましたが、2つ目の9950Xのほうはまだ3日ほど残っています。
そうしていると2日後、9600Xと顕微鏡が到着したので、さっそく2枚目のマザーボードに9600Xを載せてテストするのですが、やはり、CPUエラーのLEDが点灯します。念の為、メモリも刺しますと、CPUエラーとメモリエラーのLEDが点灯します。
あー、これはメモリも壊してしまった可能性があります。壊れたマザーボードにぶっ刺したら何でも壊れていきます。さながら感染症のようです。
せっかく将棋の大規模定跡の自動生成のために9950Xを10台ぐらい買ってやろうと予算を確保したのに、いきなりこれでは、もう定跡どころの騒ぎではありません。
将棋AI開発者のDiscordでこのことを愚痴ったところ、「だから僕は高くてもショップでパソコン買うんですよねー」「僕も僕も」みたいなことを数名の開発者から言われました。いやいや、いまそんなん聞いてへんし。傷口に塩を塗ってくんなや。
さて、このように際限なく広がり続ける傷口を前にして、しばらく呆けていたところ、なぜかディスプレイにBIOSの起動画面が映っていました。
実は、エラーのLEDが点灯していたので、画面を見ていませんでした。(PCの組み立てている側から遠いほうのテーブルにディスプレイがあったので)
よくわかりませんが、このマザーボード備え付けのLEDを信用してはならないようです。BIOSが起動するとLEDが消灯していました。
つまりは、2枚目のマザーボードとメモリと9600Xは壊れてないことが確定しました。恐る恐る2つ目の9950Xと交換すると、これまたBIOS画面が起動しました。
ということで、9950Xも壊れてませんでした。もしかして、1枚目のマザーボードも大丈夫なのか?と思ったら、そっちは本当に壊れてて、ディスプレイに何も映りませんでした。
いよいよ顕微鏡の出番です。顕微鏡で見ながら、裁縫用の針でピンを起こします。ピンはよく見ると途中から折れて先端の突起部分がなくなっているようです。まあ、そこがなくとも、突起部分以外を針で少し持ち上げれば、CPUの端子部分に接触するはずです。あと、ピンが横に曲がっていて、隣のピンとくっついてしまっています。これも顕微鏡で確認しながら針で少し向きを揃えます。
そのあとテスト用に買った9600Xを慎重に取り付けるのですが、起動しません。9600Xはさきほど2枚目のマザーボードでは使えていたので壊れていないことが判明しています。
そこで根気よく、顕微鏡で色んな角度から見ながら、隣のピンと接触しないようにしつつ、折れたピンを針で少し持ち上げ、30分ぐらい格闘したところ、9600Xを取り付けてPCに電源を入れると無事起動しました。9600Xで起動したので、9950Xに交換すると、こちらも無事起動しました。
結局、9600Xと顕微鏡が無駄になっただけで済みました。軽症です。危うくマザーボードのソケットピンとともに、私の心も折れるところでした。
皆様は、こんなことにならないように、マザーボードをPCケースに取り付ける前に、マザーボードにCPUとCPUクーラーとメモリを取り付けましょうね。
追記
ピンが折れる以外で起動しないパターンとして、CPUに塗ったグリスがマザーボード側のピンにこぼれ落ちて、グリスが絶縁性なので電気がCPUに流れないということがあるあるのようです。
そのようなアドバイスをしているYouTubeの動画を観て、私は最初、ピンが折れているとはわからず、グリスがこぼれたのかなと思っていたのですが、歯ブラシで軽くゴシゴシしても取れず、また顕微鏡で見たら見事に折れていました。
グリスをつけすぎると、(マザーボードを寝かせた状態のPCケースに取り付けて、PCケースを起こすと)そのように垂れてくることがあるようですね。気をつけたいと思います。